新時代を切り拓くべきプロたちへのエール、『われ敗れたり』


本日の『ビジネス発想源』で取り上げた本は、2011年に第1回「将棋電王戦」にてコンピュータのボンクラーズと対戦して敗れた直後に出版された、永世名人の故・米長邦雄氏による敗戦記『われ敗れたり』です。

引退したプロ棋士とはいえ日本将棋連盟の会長であり将棋界のトップに君臨した米長邦雄氏の敗戦は、将棋史に刻まれるほどの大きなニュースだったわけですが、これは題名にあるような「こうやったら負けましたよ」というような単なる参戦感想記ではなく、「プロは迫り来る新時代にも立ち向かっていかなければならない。そのためには従来の考え方や意識では絶対にダメである」という、旧態依然の世界のプロフェッショナルたちへの警鐘としてとても意味のある名著である、と思います。

あの一戦だけを見て、長らく将棋界を載せていた新聞各紙でさえ、米長邦雄氏のある一手を「戦犯の奇策」としてしか語りませんでしたが、同著ではどうしてその一手に至ったのか、対戦までの長い期間に練り続けた考え方の様子が詳細に書かれています。そして、過去の栄光を捨ててまで立ち向かった米長邦雄氏の勇姿が、ニコニコ生放送の番組視聴者数を増やし、結果として将棋のファンを増やすことにつながりました。

この本が出版された年末に米長邦雄氏は死去されましたが、同著にはあとがきにも「将棋界への遺言書」と書かれてあります。米長氏の全人生の戦略が集約されたといっても過言ではない一冊だと思います。

 


『われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る』(米長邦雄氏著/中央公論新社)


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